あれるじーと印度

暑い。なんかようわからんが、暑い。暑いとざわざわと騒ぎ出す。皮膚上でうごめくかゆみたちが。


アトピー性皮膚炎。もうずいぶん長いつきあい。生まれてからずっと。身体中に。緊密感では親や姉みたいな家族以上のつきあいだ。ずっとやつと身体をべったり合わせて一緒にいる。


別に仲良くはない。かゆい言うからかくだけ。会話とか対話とか別にない。やつらのことはよう知らん。ちゃんと知ってるやつ、医者とかでもいないでやんの。なんかノーベル賞クラスらしい。やつら追っ払えると。ノーブルだかノーベルだかグラハム・ベルだかわからんけど、さっさとおっぱらってくれ。別に自分はやつらと好きで一緒にいるわけじゃない。


かいてて思い出した。


印度で指さされて”アレルジー””アレルジー”言われたなって。


バラナシだった。あそこ、可笑しい。ガンガー付近1週間うろうろしてたけど、だいたい毎日出くわすやつ一緒。


んで、お互い顔とか覚えてんの。ずうずうしいやつだと手ぇ差し出してたばこせがみやがる。おかげで成田で買ってったマイルドセブン1カートンがあそこで尽きた。そういえばあんときはマイルドセブンだったな。もはやマルメン


2〜3日してよう会うやつに急に言われた。


「アレルジー」。


アレルギーって言え。日本語発音だとアレルギーだ。最初なに言われてんだかわからんかった。印語かよ。それとも隠語かよ。ポン引きはもういいよ。当時大学生だ。


ちなみに、印度語でセックスは「ヂギヂギ」だった。確か。日本語表記的には「ジギジギ」かもしれない。リクシャーのおやっさんたちにやたら言われた。「ヂギヂギどうだ?」みたいな感じだ、たぶん。どうだ?って言われても、そんなゲジゲジみたいな昆虫名みたいなこと言われても全然そそられんわ。もう少し艶やかな響きのある言葉にしてくれ。っていうか、昆虫言うか「ヂギヂギ」言われると「〜マシン猛レース」って付け加えたかったけど、たぶんそんなこと言ってもやつら知らんから、言わないでいることにだいぶ耐えた。


っていうか、印度では女なんて外で見かけたのほとんどなかった。老いも若きも。十何億くらい人口いてこの国には♂しかおらんのか思った。あー、でもおばちゃんはそこそこいたか。サリー着てた。腹たるんでた。最後ムンバイ寄ったとき初めて若い女が外にいるのちらほら見かけた。すごい美人だった。白いTシャツでジーパンってラフな格好だったけど、みんなベストジーニストだった。スタイルのよさパねー。あなどれんってアドレナリン出た。


で、「アレルジー」とか言って、なんかうわぁって顔してんの。見てる方がかゆいわ言わんばかりに、ぽりぽりする仕草してた。いや、かゆいのはオレだから。


その後、何人からか同じように「アレルジー」言われた。みんなかゆそうな顔して言ってくんの。いや、だからかゆいのオレだから。


おかげで、そこでのあだ名は「あれるじー」になった。町ですれ違ったら「よう!あれるじー!」みたいな。ここは七曲署か。ガンガーに昇る朝一番の太陽に吠えた。


小学校時代ぶりで吹いた。アトピー指してなんちゃら言われんの。でも、「アレルジー」だもんな。おまえらいいオトナして小学生か。


インドにはアトピーとかのヒト、あんまおらんのだなって思った。そうゆう反応見て。決して衛生的とは言えなかったけど、空気とか気候とかやつらの遺伝形質の所以かな。


現地で知り合った日本人旅行客たちはみんなガンガーに浸かっとった。主に♂だけど。♀はさすがにドン引きしとった。聖なる川の水を浴びて、現地人からもバシャバシャかけられて祝福されてた。最初からおれは入るぞーって意気込んでたやつらも、えーオレは入らないよー、とか言ってたくせに周りに流されて結局入ったやつらも。


ガンガーとかばい菌すごい。なんかの統計値だと、なんかのばい菌が平常値の何百倍とかあり得んくらい繁殖してるとか書いてた。やつら何でも流すからな。聖なる川とか言って。信仰上の儀式で、川縁で死体焼いてるし。焼いた死体そのまま流すし。っていうか、信仰上の理由とかじゃなくて、死体浮かび上がることあるらしいし。現地人、そんなん飲むしな。沐浴ついでに。洗濯ついでに。っていうか、ガンガー沿いにあったオープンカフェ、チャイの器、ガンガーの流れでゆすいでたし。いや、そんなんで洗うなよ。でも、滞在中、よく通ったけど。


入った観光客ら、みんな平気だった。たまになんか身体おかしくなったってやつもいるらしいけど、だいたい平気だったっぽい。自分ムリ。アレルジーで身体中にちょいちょいした傷口開いてるから。ちっちゃいけど外気にさらされた生肉にそんなん触れたら、何がどうなるかわからん。しかも、旅先で。


川縁で腰掛けて見てた。おそるおそる川に入って、ぎこちないながらもきゃっきゃっしてたあいつら。おまえらも小学生かよ。夏の体育の授業でプールだとかいってきゃっきゃっうかれるような。


毎日サンサンと照る真オレンジの太陽の光浴びながら、広大な川の景色眺めながら、そんなやつらも見ながら。